作るのが難しかっただろうな、と思えるCM。
だって、死んだ親の家を売ってください、なんて、とても生臭い話。
“清く明るく正しく” が求められるCMとは対岸にあるようなテーマ。
それを、
「死んだおばあちゃんが登場する」という、ひとヒネリしたストーリーと
「樹木希林さん」という希代の名女優で解決した。
特に希林さんの演技は良かった。
スタートはコミカルで楽しい演技。へそくりを現世の孫にぽいっと渡したりして家族との深い絆を感じさせる。
そしてキメのセリフ「家ってね、人が住まないとダメになっちゃうからね」のシーンでは凜と背筋を伸ばして、正論を伝える。
あえて横顔。
正面からだとメッセージが強くなりすぎ、時として反感を買ってしまう。
このセリフで、おばあちゃんが住んでいた思い出深い家を売ろうかどうしようか迷っている人に、その決別の意義をキリッとした表情で伝える。
見ていてつい、「そうだね」「人が住まなくなった家は次の人に託した方がいいよね」って僕は納得してしまった。制作者の思うツボ(笑)。
コミカルな表情から深みと説得力のある真摯な表情まで、守備範囲の広い演技。希林さんの名演技なくしてこのCMは成立しなかっただろう。希林さんあってのCM企画。代案はどうしたんだろう、なんてつい余計なことを考えてしまった。
登場人物にいっぺん死んでもらうという演出、そして希林さんの名演技。このピンポイントのような企画で、とても難しいテーマ設定を見事にクリアしCMとして成立させた。制作者の手腕を感じるCMだ。