「この世界の片隅に」と「えんとつ町のプペル」と、インターネット

「この世界の片隅に」を見た。遅ればせながら。

映画の賞を取って、何より興行成績も上々、
『「この世界の片隅に」片渕須直監督、ブルーリボン賞監督賞に アニメ映画で初』
この勢いで、声優を務めた「のん」さんに対する芸能業界からの理不尽な締め付けもなくなればいいんですけどね。

ストーリーはいろいろ感想があって長くなるので別の機会におくとして、
この映画は、クラウドファンディングによる資金で制作されています。

製作委員会の報告ページによれば、このアニメ映画の制作に関して、
3,374人のサポーターが、
39,121,920円を出しています。

で、映画のラストでそのサポーターの名前がずらっと出てくるわけ。そのテロップを見て、あ、そういう経緯もあったんだよな、と思い出す。
個人の名前から、2ちゃんのハンドルネームみたいなのとか、顔文字使ってる人とか、
会社名や店名、大学のゼミとか、はては神社とか、そういう団体も。

そういう市井の人たちの善意や熱意みたいなものが、スクリーンに映る文字ひとつひとつから湧き立ってくるみたいだった。
こういう人たちの気持ちに支えられて、この優しくてたくましくて楽しい物語が紡ぎ出されたんだよな、と実感した。
ホント、良かったね。クラウドファンディングできる、こういう時代になって、と思ったんだ。

この映画鑑賞と前後して、キンコン西野の「お金の奴隷解放宣言」もネット上で大騒ぎになっていた。

20万部以上を売り、絵本としては異例のヒット作となった「えんとつ町のプペル」の電子書籍を無料公開するという内容。
「無料公開」「無料化」というコトバが先走ったけれど、要はPDFをタダでダウンロードできるという、タダそれだけのこと。1冊2,000円もする絵本はそのまま販売する。

もともと絵本=絵画作品に近いものとして制作されているし、印刷も多色刷りで凝っているらしいから、はやり紙の本で見ないと本当の価値は分からないだろう。
一方、電子書籍の方は、その中身は単なる画像化だから、色の質感なんて見るパソコンモニタのサイズや表示品質でころころ変わる。単なる内容確認のためのメディアでしかない。そんなものに本来的な価値はないからタダで配ってしまえ、宣伝にもなるし、ということだと思う。

ただ、それを告知するブログの「お金の奴隷解放宣言」というタイトルがちょっと刺激的だったし、「無料」というコトバに釣られて“クリエーター”を名乗る人たちがいろんなブーイングをかまして炎上したみたいだけど。
『キングコング・西野さんの絵本無料公開を批判するクリエイターは、今後確実に食えなくなる。』

僕の感想としては、電子書籍は色とかの品質に問題があるとはいえ、それを無料にすることによって作品に触れられるチャンスが広がり、結果的に制作者の利益にもなるなら、良いんじゃない。ということ。また次、作品が作れるしね。
上のコラムにも書かかれていたけれど、YouTubeの無料のムービークリップでライブのシーンとかを見せて、リアルのライブイベント来場に誘導するのと、大して変わらない戦術だし。これを否定するのは、いまを否定するのと一緒。

で、今日の結論。
インターネットって、こんなふうに人の力を集め、ポテンシャルを広げるためのツールだったよね。
「この世界の〜」みたいにお金を集めて映画を作って、それによって感動を共有したり、
「プペル」のようにみんなと作品をシェアしたり、それによって制作者自身も制作費を稼いだり。

ちょっとくさいことを言うと、夢を実現したり、時空を越えて多くの人と同じ気持ちになったり、自分の可能性を広げたり、そんなエンハンスのメディア。それがインターネットじゃなかったっけ。「インターネット黎明期」、みんなでそんな理念を発見し合ってなかったっけ??

それをDeNAのウェルクとか一部の人間が、「インターネット錬金術」を始めてしまった。
インターネット上にヘンな仕組みを自分たちで作り上げて、そこから直にカネを吸い上げることを始めてしまった。
でも錬金術はしょせん、錬金術。本当に「金」を作っていたわけではないから、メッキがはがれて頓挫してしまったけれど。

インターネットはあくまでもメディアでしかない。その本来的なポリシーをしっかり踏まえて仕事していかないとな。ヘタをすると自分もDeNAのように“ダークサイド”に落ちちゃうよ。
これが、「この世界の片隅に」を見終わったときの最終的な感想なのでした。

※サムネイル画像はhttp://konosekai.jpより