ジダンと歌丸師匠に感じる「美学」

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「まだできるじゃないですか?」
「あと2つね!」

2006年のドイツ・ワールドカップ、準々決勝でブラジルに勝ったフランスのジダンのインタビューでのこと。彼はこの大会を最後に選手生活の引退を表明していた。

このゲームでジダンは決勝ゴールのアシストを決めたほか、スーパープレイを連発してマッチMVPにも選出された。
そんなゲーム直後、インタビューアからの質問にジダンが答えたのが冒頭のやり取り。

このゲームの活躍ぶりを見て「まだまだできる、引退はもったいない」と水を向けたインタビューアに対して、「あと2つ(準決勝と決勝の2戦)だけだよ」と、あくまでもジダンは優勝して引退を主張する。

短いやり取りの中に、この天才の引退を惜しむみんなの気持ちを代弁するようなインタビューアの質問と、それに対していかにもフランス人らしいエスプリの効いた答えを返すジダン、その両者の対照的な立場がとても印象に残ったシーンだった。

そしてあれから10年後の日本。

長寿番組「笑点」の顔とも言える歌丸師匠が、ついに引退を表明し、その最後の収録が行われた。

歌丸師匠といえば、僕は、まだ大喜利メンバーとして座布団の上にすわっている時代から見ていた。いつの間にか司会席に場所を移し、病欠しながらも長年、番組に出演していた。「笑っていいとも」のタモリと、どっちが長いんだろう?

そんな歌丸師匠が最後の収録で、師匠らしいエンディングを迎えたそうだ。

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歌丸師匠が笑点司会勇退発表したあと客が 「まだできるぞ~!」ってさけんだあと大喜利で使ってたYESとNOの札使ってNOって即答して笑ったし歌丸師匠やっぱすごい

出典はこちら

ジダンはエスプリで、歌丸師匠は笑いで、それぞれのエンディングを演出した(ジダンは決勝戦であの頭突き事件という衝撃的なラストを迎えるのだけれど)。

まだできるかもしれない。周囲もそれを望んでいるのは分かっている。でも、これ以上やったら、自分のプレイや芸が保証できない。それはプライドが許さない。そんな第一人者としての「美学」を両者に感じる。サッカーと落語、まったく違う領域だけれど。

頂点を極めた人だけができる、勇気ある決断だ。